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イベント・レポート
No.034
第8回恵比寿映像祭「動いている庭」 後編

第8回を迎え、2016年2月11日から20日まで開催された「恵比寿映像祭」。これまでの映像祭の経緯や今回のテーマ「動いている庭」に込めた意図について東京都写真美術館の岡村恵子さんにお話しを聞いた「前編」に続き、「後編」では会場の様子をレポートします。6つの会場を中心に、映像作品の上映やインスタレーション、ドローイング、立体作品など「映像」を軸としたさまざまな作品を展示。上映、ライブなども含めた全132点から、一部をダイジェストで紹介します。


生物の「動き」を尊重した、自然との向き合い方

昨年リニューアル・オープンした恵比寿ガーデンシネマでは、12本の映像プログラムを日替わりで上映。なかでもジル・クレマン ドキュメンタリー《動いている庭》では映像作家・澤崎賢一氏によるクレマン氏を追った85分の映像により、今回のテーマに迫ります。
「動いている庭」とは、庭師、修景家、小説家など多くの肩書きを持つジル・クレマン氏による、自然に寄り添った庭づくりの実践と考え方です。動植物は生きている限り「動き」があるということを念頭に、クレマン氏は生物の多様性を守るため、虫を殺すのではなく生かし、植物を足すのではなく引いて庭を整えます。
「クレマン氏の考え方を現代社会に当てはめ、表現に置き換えたらどのようなことが見えてくるだろうか。こうした試みが今回の恵比寿映像祭のテーマ」と本展のキュレーターのひとり・田坂博子さんは話します。自然環境はもちろんのこと、コントロール不能な都市やテクノロジー、ネットワークなどをも自然ととらえたとき、どのようなアプローチがあるのでしょうか。

澤崎賢一《動いている庭》2016年 Photo: Kenichi Sawazaki
澤崎賢一《動いている庭》 2016
Photo: Kenichi Sawazaki


さまざまな「自然」を捉えた多様な作品群

メイン会場でもあるザ・ガーデンホールでは、14組の国内外の作家の作品を展示していました。ドローイングを2次元から空間や時間へと広げる鈴木ヒラクさんは2つの作品を展示。一見すると長時間露光で撮影をしたような写真が壁面に並んでいます。このシリーズの出発点は、闇のなかの盲目な状態で、黒い紙にシルバーのスプレーで描いたドローイング。それらを後から撮影しています。

鈴木ヒラク《GENGA (photo) 》シリーズ、2015
鈴木ヒラク《GENGA (photo) 》シリーズ、2015

また、鈴木さんが日常の気づきをもとにA4のコピー用紙に書き溜めた1000枚のドローイングをつなげた映像《GENGA》も展示。GENGAとはGINGA(銀河)とGENGO(言語)の間という意味を含んでいます。「周囲に応答しながら制作する姿勢が、自然に呼応した庭づくりを行うジル・クレマン氏の思想に似ている」とキュレーターの岡村恵子さん。

鈴木ヒラク《GENGA #001-#1000 (video) 》、2009
鈴木ヒラク《GENGA #001-#1000 (video) 》 2009

ふと珍しい植物の前で足が止まります。クリス・チョン・チャン・フイさんの《固有種》シリーズは、ボルネオ島(マレーシア)のキナバル山地域にしか生息しないランを実物大で制作した造花。じっと目を凝らすと、葉や花がピクっとわずかに動きます。
「固有種」とはある特定の場所だけで存在している種のこと。この固有種が別の場所に移動したら果たして生きていけるのだろうか。ではこれを人間に置き換えたらどうだろうか。生まれ育った地からの移住を強いられる、先住民の宿命に重ねた作品です。

クリス・チョン・チャン・フイ《END74 Pholidota sigmatochilus》 「固有種」シリーズより、2015
クリス・チョン・チャン・フイ《END74 Pholidota sigmatochilus》 「固有種」シリーズより、2015

今回の恵比寿映像祭では、普段の写真美術館では実現できない試みもありました。展示のなかに生きた虫がいるのです。園芸学、植物生理学などをも専門とするアーティスト・銅金裕司さんの《シルトの岸辺あるいは動く庭》は、アリジゴクが砂絵を描く作品。粉末状の岩絵の具と砂が入った器のなかでアリジゴクが動き、予測のつかない造形が描かれていきます。

銅金裕司《シルトの岸辺あるいは動く庭》2016
銅金裕司《シルトの岸辺あるいは動く庭》 2016

ザ・ガーデンホールから会場を移し、同じ建物内にある38階のスペース・STUDIO38では、上田麻希さん、藤木淳さんの展示。ずらりと吊るされた小さな瓶は「嗅覚」のアーティスト・上田麻希さんの《嗅覚のための迷路 vol.1》。3種類の花の香りを嗅ぎ分け、同じ香りのする先を辿っていく迷路のようなインスタレーションです。38階の部屋から見える都会の景色を背景に、絶妙な香りの差を感じようとひたすら小瓶を嗅いでいきました。

上田麻希《嗅覚のための迷路 vol.1》2013
上田麻希《嗅覚のための迷路 vol.1》 2013

STUDIO38からの眺望
STUDIO38からの眺望


天気、人、建物、さまざまな環境に呼応する作品

そして今回、最も注目度の高い作品の一つでもある中谷芙二子さんの霧の彫刻は、恵比寿ガーデンプレイスの中央、センター広場にありました。2台のダンプトラックから吹き出す霧が、そこにいる人や建物などを包み込み、刻々と風景を変化させます。強い風が吹くと吹雪のようになり、やさしい風のなかではゆっくりと漂う。天候を含め、周囲の環境を巻き込む展示は都市部の展覧会ではなかなか見られないもの。一期一会の体験となりました。

中谷芙二子《霧の庭“ルイジアナのために”》2016 写真提供:東京都写真美術館  撮影:新井孝明
中谷芙二子《霧の庭“ルイジアナのために”》 2016
写真提供:東京都写真美術館 撮影:新井孝明

レポートの都合上、今回はごく一部のご紹介となりましたが、ほかにも見応えのある作品ばかり。その多くは見る人を巻き込み、作品の一部として受け入れてくれるような寛容さを備えていました。ジル・クレマン氏の唱える「動いている庭」と同じく、多様さを尊重した作品が多かったように思います。26の国と地域から73名のアーティストの作品が恵比寿に集結した映像祭。毎日足を運んでも飽きないフェスティバルに、来年の開催がいまから楽しみです。

文・構成/佐藤恵美


オープニングレセプションでのアーティスト集合写真

第8回恵比寿映像祭 動いている庭

会期=2016年2月11日(木・祝)〜2月20日(土)
会場=ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンシネマ、日仏会館、 STUDIO38、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場 ほか
主催=東京都/東京都写真美術館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団) /日本経済新聞社
www.yebizo.com

 
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