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パブリックドメインで巡る世界の美術館
No.002
アムステルダム国立美術館 フェルメールの描いた室内

2020.9.30

パブリックドメイン(公共の知的財産)となった所蔵品をオンラインで公開している世界の美術館を巡るシリーズ。第2回は、中世から現代にかけてのオランダの芸術を中心に収蔵するアムステルダム国立美術館です。そのコレクションのなかでも、ひときわ特別な存在感を有しているのがヨハネス・フェルメール(1632-1675)の作品です。いつもの、よくある情景が、何とも魅力的なオーラを放ち始める――フェルメールは、そんな瞬間を、色遣いと筆遣いと構図の力で絵のなかに閉じ込めた稀有な画家です。とはいえ、22年に及ぶ制作期間のなかで、いつも同じようにキャンヴァスに向かい合っていたわけではありません。本記事では、フェルメールについて長年研究されている美術史家の小林ョ子さんに、室内にいる女性を描いた作品をご解説いただきます。

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1660年頃

ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》1660年頃

http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.6417

初期の《牛乳を注ぐ女》は、厨房の女性を主人公としています。光に洗われた明るい壁を背に浮き立つその姿は、実に、圧倒的です。見る者は、思わず、手が荒れ、化粧気もない彼女に目を奪われることでしょう。そして、彼女の眼差しと斜行する窓の桟に導かれ、視線を彼女の手元、甕(かめ)から平鉢に落ちる白い牛乳、机上のパンへと移していきます。注意を逸らすものは何一つなく、驚くべき凝集の力が働いていることがわかります。数少ないモティーフの考え抜かれた配置、赤・青・黄・緑・白の数少ない色による描写の賜物といえます。特別な一瞬へと変容していく日常の営み。フェルメールの画家としての技の粋はそこにあります。

ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》1663年頃

ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》1663年頃

http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.6420

《牛乳を注ぐ女》から数年後、故郷デルフトで画家として一目置かれ始めていたフェルメールは、《手紙を読む青衣の女》に向かい合います。家事が手紙に変わりましたが、物の少ない室内の一隅、背後に白い壁、何かに集中する女性というポイントは前作と変わりありません。しかし、この度は、色彩を一段と切り詰め、室内のすべてを青と黄土色と白の、たった三色の諧調で包みこみました。筆遣いも光の表現も、格段に穏やかに、滑らかになっています。この静謐きわまりない、最小限に簡素な書割のなかで、女性はわれを忘れて手紙に没頭し、見る者はその瞬間を息をのんで見つめることとなります。

ヨハネス・フェルメール《恋文》1669〜1670年頃

ヨハネス・フェルメール《恋文》1669〜1670年頃

http://hdl.handle.net/10934/RM0001.COLLECT.6418

時とともに世の絵画の好みは移ろい、それに応じて、画家の様式も変わっていきます。市民社会を市場とする17世紀オランダ画家の宿命です。手紙は、1670年前後に描かれた《恋文》でも再びテーマとなりますが、ここでは遊戯的な演出の小道具という役回りを負っています。来信を手にして振り向く女性、意味ありげなほほ笑みでそれに応える召使。他の画家が好んで描いた市民社会のざわめきがフェルメールの室内にも侵入してきました。盛りだくさんの物を描きこんだ室内からは、かつてのような瞬間の静けさより、面白みのある趣向を優先させていることが透けて見えます。前作からのこの変化の向こうに、当時の絵画市場の好みの変化が読み取れそうです。

Text:小林ョ子(美術史家)

アムステルダム国立美術館

オランダ最大の美術館であるアムステルダム国立美術館では、レンブラント・ファン・レインの《夜警》をはじめとした、オランダ絵画のコレクションが特色。中世から現代までの時代ごとに80の展示室で構成されています。フェルメールについては、本記事で紹介した3作品に加え、オランダ・デルフトの街を描いた風景画《小路》(1657~1658年頃)の4作品を所蔵しています。
https://www.rijksmuseum.nl/en
https://www.rijksmuseum.nl/en/rijksstudio ※左記の美術館公式サイトにてパブリックドメインを公開
住所:Museumstraat 1, 1071 XX Amsterdam, オランダ 開館時間:9:00〜17:00
入館料:大人€ 20,00(オンライン € 19,00)、18歳以下は無料

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