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川端康成〈後編〉

アーティスト解体新書

No.007

小説家の川端康成(かわばた・やすなり 1899-1972)は、20代での文壇デビューからなくなる前年にいたるまでの約50年間、テーマもスタイルもさまざまな作品を、意欲的に発表し続けました。常に新しい表現を模索する姿勢から「奇術師」とも呼ばれた川端。なかでも異色作として名高い『眠れる美女』をもとにしたオペラも、まもなく東京文化会館で上演されます。


イラスト:豊島宙
構成・文:TAN編集部(合田真子)

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2017.01.07

川端康成(かわばた・やすなり 1899~1972)

明治32年、大阪府茨木市生まれ。繊細な筆致で日本の古典的美を表現した小説家。代表作に『伊豆の踊子』『雪国』『山の音』『古都』『美しさと哀しみと』など多数。昭和43年(1968)、日本人初のノーベル文学賞を受賞。


多くの肖像写真が残る川端の風貌で、年代を超えて印象的なのが、大きな目。その強い光をたたえた瞳には、さまざまな伝説が残る。若い女性編集者が初めて対面した折、威圧感に耐えられず泣き出した話や、川端宅に夜半侵入した泥棒が、寝ている川端と目が合ったとたん「だめですか」と言って退散した話などが有名だ。またある時のこと、京都・祇園の茶屋で十数人もの舞妓を呼び寄せた川端は、座敷に彼女達を一列に座らせ、無言でじっくり鑑賞。2~3時間後ようやく「ありがとう、ご苦労様」と微笑んだという。川端の「目」は迫力があっただけでなく、尋常ならざる観察力を備えていたのかもしれない。

川端は、文学に限らず芸術全般を愛し、造詣も深かった。特に美術については「所有しなければわからない」として、縄文土器に始まり、古代・中世の仏像、国内外の絵画、彫刻、工芸品から、草間彌生などの現代美術作品にいたるまで積極的に蒐集し、時には借金や原稿料の前借りをしてでも手に入れた。川端の遺品や作品を管理する〈川端康成記念会〉には、国宝の浦上玉堂《凍雲篩雪図(とううんしせつず)》など、一流の美術コレクションが残る。その反面、安いライターやキーホルダーといったものも好みで、気に入ったデザインを見つけると嬉しそうに買い溜め、人にあげたりしていたという。

川端の作風は、日本の伝統文化を軸とした叙情的なものと、前衛的、幻想的なものとが併存し、娯楽作品や少女小説、歴史小説など、作品ごとに多彩な展開を見せた。60歳から62歳にかけて執筆された『眠れる美女』は、幻想的要素の濃い作品の代表作だ。薬で眠らされた娘と一緒に添い寝のできる奇妙な宿に、泊まり込んでは過去の記憶をたぐりよせる老人。そのシュールな設定と謎めいた展開は、発表当時、大きな話題となった。国内外の小説家たちにも影響を与え、川端文学の最高傑作の一つとして、今なお人々を魅了し続けている。

<完>

監修:国書刊行会

豊島宙(とよしま・そら)

イラストレーター。1980年茨城県生まれ。パレットクラブスクール卒業。

国内外問わず、雑誌、広告、WEB、アパレルを中心に活動中。サッカー関連のイラストレーション、メンズファッションイラストレーション、似顔絵を得意とする。

http://soratoyoshima.net

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