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佐伯祐三

アーティスト解体新書

No.046

豊島宙さんのイラストレーションで古今東西の画家、作曲家たちの生涯を紹介するシリーズ「アーティスト解体新書」。今回は2023年に生誕125年を迎える佐伯祐三(1898-1928)を取り上げます。佐伯は大阪、東京、パリの3つの街で暮らすなかで、モチーフにとなる風景と出会いを描いてきました。短い画業の中で大きく画風を変化させたのはなぜなのか。背後にあったドラマに迫ります。


Illustration:豊島宙
Text:冨田章(東京ステーションギャラリー館長)

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2023.03.29

巨匠ヴラマンクからの洗礼

佐伯祐三は、東京美術学校を卒業するとまもなく、妻と幼い娘を連れてパリに旅立ちます。数か月のち、満足のいく裸婦の絵が描けたと思った佐伯は、フォーヴィスムの巨匠モーリス・ド・ヴラマンクを訪ねてこの絵を見せました。ところがヴラマンクは絵を見るなり「このアカデミック!」と怒声をあびせます。ゴッホやセザンヌが好きで、自分はアカデミスムの保守的なスタイルとは無縁だと思っていた佐伯にとって、さぞ大きな衝撃だったことでしょう。この一言で覚醒した佐伯は、独自のスタイルを獲得するために、人並みはずれた集中力で猛然と制作を始めます。

石造りの建物の壁に惹かれる

ヴラマンクに「喝」を入れられた佐伯は、荒々しいタッチと暗い色彩でフォーヴィスム風の風景を描き始めますが、ある日ユトリロの展覧会を見て大きく感化され、パリの街並みを重厚なタッチで描くスタイルへと変化していきます。特に石造りの建物の壁は佐伯が強く惹きつけられたモチーフでした。靴屋の壁を正面から描いた《コルドヌリ》という作品でサロン・ドートンヌに初入選、しかも初日に買い手がつき、アトリエにあった作品も7点売れました。順風満帆に見えた留学生活ですが、結核だった佐伯を心配する実家の意向で、一時帰国をすることになります。

日本の風景を発見する

「日本に留学してきます」と言い残して日本に帰った佐伯でしたが、パリでつかみかけた独自の様式を生かせるモチーフに出会えず苦悩します。それでもアトリエのあった東京の下落合周辺や、大阪の安治川などで精力的に制作を重ねました。これらの作品では電信柱や帆船のマストなど、線の描写に力が注がれています。モチーフに苦しみながらも、なんとか新しい表現を模索しようとする佐伯の執念が感じられる作品群です。結局、1年半も待たないうちにパリへと戻った佐伯は、以前にも増して何かに追われるように、すごい勢いで制作にとりかかりました。

奔放な線の新たなスタイルへ

第2次パリ時代の作品では、街路樹の枝やポスターの文字、果てはサインに至るまで、画面中を奔放な線が跳ね回っています。一時帰国時代に日本で習得した線の描写を生かし、佐伯は新たなスタイルを獲得したのです。生命力、躍動感に溢れたこれらの作品は、誰の物まねでもない、佐伯オリジナルのユニークな表現であったと言えるでしょう。もともと描くのが速かった佐伯ですが、この時代はそれに拍車がかかります。一日に何点もの作品を描き、後で手を加えることはほとんどなかったといいます。この早描きこそが、自由な線を生み出す秘密でした。

最後の傑作

「枚数は自由で、一か月100号分の絵に対して3000フランを支払う。」パリの通りで制作中の絵を見た画商が、佐伯に契約をもちかけます。当時パリには100人を超える日本人画家がいましたが、これほど高い評価をされた画家はほとんどいません。しかし佐伯に残された時間はほとんどありませんでした。パリに着いて一年後、体調を崩し、精神的にも追い詰められた佐伯は郊外の精神病院で息を引き取ります。病床の佐伯が描いた《郵便配達夫》は、若いころから佐伯が敬愛していたゴッホの《郵便配達夫ルーラン》へのオマージュともいえる最後の傑作です。

《郵便配達夫》1928年、大阪中之島美術館

佐伯祐三 自画像としての風景
2023年1月21日(土)〜4月2日(日)
*会期中一部展示替えがあります
会場:東京ステーションギャラリー
住所:千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
時間:10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(3月27日は開館)
主催:東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]、読売新聞社
https://saeki2023.jp/

佐伯祐三(さえき・ゆうぞう)
1898年に大阪で生まれた佐伯は、25歳で東京美術学校を卒業し、その年のうちにパリに向かう。一時帰国を経て、再渡欧したのは1927年。猛烈な勢いで制作を続けるが、結核が悪化して精神的にも追い詰められ、1年後にパリ郊外の病院で死去。30歳だった。

豊島宙(とよしま・そら)
イラストレーター。1980年茨城県生まれ。パレットクラブスクール卒業。
国内外問わず、雑誌、広告、WEB、アパレルを中心に活動中。サッカー関連のイラストレーション、メンズファッションイラストレーション、似顔絵を得意とする。
http://soratoyoshima.net

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