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アンリ・マティス〈後編〉

アーティスト解体新書

No.049

今回の「アーティスト解体新書」は20世紀美術最大の巨匠の一人、アンリ・マティス。北フランスに生まれ、フォーヴィスム(野獣派)の中心的な存在として活躍、後世の作家たちにも多大な影響をあたえています。後編は、マティスの長い芸術家人生で最後に到達した記念碑的な表現、「切り紙絵」への道を辿ります。(前編はこちら


Illustration:筧菜奈子
Text:米田尚輝(国立新美術館)

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2024.05.02

1930年にコレクターで実業家のアルバート・C・バーンズから、アメリカ合衆国ペンシルヴェニア州メリオンにあるバーンズ財団のための大壁画の制作を依頼されました。マティスはニースに広大なガレージを借り、先端に木炭片を取り付けた長い竹竿を使いながら、合わせると幅約13メートル、高さ約3メートルに及ぶ、別々のパネル3点に《ダンス》を描いていきます。しかしそれはあまりに巨大な壁面であったため、彼はまた小さなサイズの油彩や切り紙を用いてその構図を考えました。途中、サイズの間違いによって描き直しを余儀なくされるも、最終的にパネルは1933年にバーンズ財団に設置されました。

最終的には彼の終の棲家となるニースの小高い丘に位置する高級ホテル・レジナ館には、モンステラなどの巨大な観葉植物、小鳥たちを飼うための鳥籠、そして自ら骨董品屋で収集した家具調度品などの数多くのオブジェが置かれていました。大きな窓から日差しが差し込むこの部屋で、病気のため自由に動けなくなったマティスはアシスタントの力を借りながら精力的に制作に励みます。こうした環境でマティスが積極的に用いた技法が「切り紙絵」です。彼は色が塗られた紙をハサミで切り取って様々な形を生み出し、それらの切り紙の断片をアシスタントに部屋の壁面にピンで留めさせて大スケールの構図を考えました。

1948年からマティスはニース近郊の小さな町ヴァンスで、ドミニコ会の礼拝堂の建設に携わります。とりわけ目を見張るのがステンドグラスと陶板壁画で構成された礼拝堂の室内装飾です。彼はステンドグラスの図案「生命の木」を切り紙絵によるマケットをもとに考案し、陶板壁画「聖ドミニクス」「聖母子」「十字架の道行」の図像を筆によるデッサンで描いて白いタイルに焼きしめました。これらの他にもマティスはキリスト磔刑像や司祭の上祭服と装身具一式に至るまで、この礼拝堂に関わるほぼ全てのデザインを指揮しており、彼自身が「全生涯の仕事の到達点」と認めています。(前編はこちら

マティス 自由なフォルム
2024年2月14日(水)~5月27日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
時間:10:00~18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日 ※ただし4月30日(火)は開館
https://matisse2024.jp

アンリ・マティス

ル・カトー=カンブレジに生まれる。パリに出て法律を学ぶが22歳で画家を志し、国立美術学校のギュスターヴ・モローの教室で指導を受ける。新印象主義的な表現を経て、「フォーヴィスム」誕生の中心的役割を果たす。その後はデッサンと色彩とを融合する「切り紙絵」へ到達。1948年から4年間にわたり携わったヴァンスのロザリオ礼拝堂は集大成となった。

筧 菜奈子(かけい・ななこ)

イラストレーター、現代美術・装飾史研究者。東海大学教養学部講師。美術に関する研究を行うとともに、イラストレーション、漫画制作を手がけている。主要な著書に『めくるめく現代アート』『いとをかしき20世紀美術』など。
https://zigzaqro.com/

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