革新的な建築構造
スイスで建築設計を行っていた1914年、ル・コルビュジエはその後の建築作品の原型となる「メゾン・ドミノ」を考案する。この工法は、床面とその内部に設置した柱で建物を支える仕組みだ。これにより、過重を支える構造壁にとらわれない、自由な壁面と間取りを実現させた。1926年以降、ル・コルビュジエはこの工法をさらに発展させた「近代建築の5原則」を提唱する。その5つとは、柱で建物を持ち上げた「ピロティ」、「屋上庭園」、「自由な間取り(平面)」、「横長の窓(水平に連続する窓)」、「自由な立面(ファサード)」である。加えて、人間の身体スケールを基準として建築や家具を設計する「モデュロール」という方法も考案し、これらの手法は人々の生活に即した新しい建築の在りようをもたらした。
国立西洋美術館を実現させた日本人弟子
ル・コルビュジエが日本に残した唯一の建築作品が、東京・上野にある国立西洋美術館本館である。その実現には、3人の日本人弟子の存在があった。ル・コルビュジエは1955年に一度来日したのみで、1年4カ月後に寸法の書かれていない図面をフランスから送っている。その図面を前川國男(まえかわ・くにお)、坂倉準三(さかくら・じゅんぞう)、吉阪隆正(よしざか・たかまさ)が解読し、施工した。「無限成長美術館」というコンセプトで設計され、来館者は1階のピロティから中央のホールに入り、螺旋状に拡がる展示室を巡っていく。ル・コルビュジエにおける近代建築のエッセンスが詰まったこの美術館は、2007年に国の重要文化財(建造物)に指定、2016年には世界文化遺産に登録された。
3人の弟子の中でも前川は、国立西洋美術館設立20周年となる1979年に竣工した国立西洋美術館 新館や、同じ上野公園内の東京文化会館や東京都美術館の設計も担当している。今日も近代を代表する師弟の名建築が、ル・コルビュジエの思想を体現してくれている。
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