アンパンマン誕生秘話
アンパンマンの初登場は1969年、雑誌『PHP』に連載した大人向け童話の一つとしてである。はじめは飢えた子供たちにあんパンを配る、マントの焼け焦げた太ったおじさんだった。現在に近い姿で登場するのは、1973年の絵本『あんぱんまん』(フレーベル館)からだ。自らの顔を食べさせるという設定に、出版社には顔をしかめられ、大人からは「顔を食べさせるのは残酷」と手紙が来たが、絵本がすぐにボロボロになってしまうほど子供たちには大人気だった。それを知ったテレビ局のプロデューサーの熱意で、1988年に『それいけ!アンパンマン』としてテレビアニメ化される。
本当の正義の味方はかっこ悪い
1941年に徴兵され、戦争で一番辛かったのは、飢えだとやなせは語る。また、戦争が終わった途端に「正義」の論理は逆転するものだと思い知らされたという。そんなやなせは、「逆転しない正義とは献身と愛」であり、「本当の正義とは、例えば空腹の人に一片のパンを与えることである」と考えるようになる。そうした自らの考えが、自分の顔を食べさせ、その顔が濡れたり汚れたりすると力が出なくなってしまうアンパンマンのような、独自の「正義の味方」像を形づくっていった。
すべての人の心に寄り添う存在
「子供だからといってグレードを下げてはいけない」と、やなせは子供から大人まですべての人に向けた作品づくりを心がけていた。それは、自身が作詞した「なんのために生まれて/なにをして生きるのか」と歌う『アンパンマンのマーチ』の哲学的な歌詞にも表れている。
東日本大震災の時、ラジオから流れた『アンパンマンのマーチ』に子供たちの大合唱が起き、心打たれた大人たちは涙を流した。やなせの想いと優しさの詰まった作品たちは、どんな時も、誰の心にも寄り添ってくれる存在となっている。
<完>