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イベント・レポート
No.065
和田菜穂子(東京建築アクセスポイント)レクチャー&ツアー 「体験型の学び:建築を通して本郷の歴史を知る」

2020.4.8

TOKAS本郷。水平を強調し、すっきりとしたモダニズム・デザインの外観を持つ
TOKAS本郷。水平を強調し、すっきりとしたモダニズム・デザインの外観を持つ

トーキョーアーツアンドスペース本郷(以下、TOKAS本郷)で、2020年2月8日に「体験型の学び:建築を通して本郷の歴史を知る」と題したレクチャー&ツアーが行われました。都内で建築ツアーの企画・運営などを行っている「東京建築アクセスポイント」の代表者であり建築史家でもある和田菜穂子さんと、抽選で選ばれた参加者が、実際に街を歩いて建築を巡りながら本郷の歴史について学びました。

今に残る復興後の街並み

「トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)」は、幅広いジャンルの活動や領域横断的・実験的な試みを支援し、同時代の表現を東京から創造・発信するアートセンターです。その発表の場であるTOKAS本郷は、文京区本郷の神田川のほど近く、本郷給水所公苑の向かいにある、1928年に建てられた歴史のある建築です。TOKASがこの建物紹介のマップ作成のための調査を行ったことがきっかけで、同じ文京区にある建物を知るための本ツアーが、OPEN SITEの教育普及事業としてTOKASにより企画されました。

TOKAS本郷の建物の魅力を紹介する館内探索マップ
TOKAS本郷の建物の魅力を紹介する館内探索マップ

講師の和田菜穂子さん
講師の和田菜穂子さん

この日はまず、建築を見て学ぶこと、そして本郷の建築についてレクチャーを受けました。日本と北欧の近代住宅史を専門とする和田さんによると、現在の本郷の街並みをかたちづくる建築は、1923年に起こった関東大震災の復興計画がカギとなっています。この計画では、不燃かつ耐震耐火素材である鉄筋コンクリート造が推奨されたほか、市民の住まい・暮らしの復興、職業の復興、そして学校と公園の復興などが目指され、西洋風のデザインが多く取り入れられました。本郷地区でも、日本初の洋式集合住宅である「文化アパートメント」や、女性や少年、知識階級の人々のための職業紹介所として建てられた「本郷職業紹介所並婦人少年職業紹介所」(現・TOKAS本郷)、復興小学校の一つである「旧元町小学校」、そして隣接する復興小公園「元町公園」などが1920年代後半から1930年代前半にかけて相次いで建設されました。

TOKAS本郷の一階で行われたレクチャーの様子。この部屋はかつて職業紹介室として使われていた
TOKAS本郷の一階で行われたレクチャーの様子。この部屋はかつて職業紹介室として使われていた

復興を象徴する学校建築

築90年以上という、TOKAS本郷の建物内を探索してウォーミングアップをしたら、いよいよ外に出てツアーの開始です。まず向かったのは、「旧元町小学校」。
現在は閉校して立ち入ることができませんが、通りからも鉄製の窓枠や、外観にリズムを与える丸い付け柱など、当時の姿を垣間見ることができます。
続いて、小学校の校庭から直接避難できるよう隣接して造られた「元町公園」へ。シンメトリックな配置計画やアーチ形の装飾、高低差のある敷地を活かして水が流れるカスケード(人工滝)など、1930年当時、最先端であった西洋風のデザインが取り入れられています。水を取り入れた設計や、装飾として使われている十字架について「復興に対する東京市(当時)の担当者の思いが感じられます」と和田さん。

「元町公園」は高台に位置し、このすぐ下を神田川が流れている
「元町公園」は高台に位置し、このすぐ下を神田川が流れている

元町公園に隣接する「昭和第一高等学校」(旧昭和第一商業学校)

坂道を登りきると、復興計画の一環として、女子一貫教育のために建てられたスパニッシュ様式を取り入れた「桜蔭学園」が左手に見える

左:元町公園に隣接する「昭和第一高等学校」(旧昭和第一商業学校)
右:坂道を登りきると、復興計画の一環として、女子一貫教育のために建てられたスパニッシュ様式を取り入れた「桜蔭学園」が左手に見える 

ツアーは本郷から後楽園に向かって、「東洋学園大学」に到着しました。思わず足を止めてしまう校舎の巨大な壁画は、1961年に建築家の今井兼次がデザインしたもので、学生や卒業生、教職員が持ち寄った陶器の破片が使われているそうです。そこから少し先へ進むと、明治期や震災復興期に建てられた煉瓦塀が見えてきます。

「東洋学園大学」の壁画を鑑賞。同学は1926年に東洋女子歯科医学専門学校として設立された

参加者がフランス積みという煉瓦の積み方を観察

左:「東洋学園大学」の壁画を鑑賞。同学は1926年に東洋女子歯科医学専門学校として設立された
右:参加者がフランス積みという煉瓦の積み方を観察

江戸時代からこの地の名物であったクスノキ

「弓町本郷教会」の外観。アーチ形の窓が特徴的

左:江戸時代からこの地の名物であったクスノキ
右:「弓町本郷教会」の外観。アーチ形の窓が特徴的

街を見守る鉄筋コンクリートの教会

春日通りに向かってさらに進んでいくと、樹齢600年とも言われる大きなクスノキが立ち、その向かいに「日本基督教団弓町本郷教会」があります。この日は礼拝堂の中を見せていただき、大澤牧師から教会の歴史について伺うことができました。この教会は、1886年に神田明神の坂上(文京区湯島)で開始された伝道を最初としており、関東大震災で会堂が焼失した後1926年に建てられました。現在の建物には、同教団の信者であった中村鎮(まもる)という建築家が開発した「鎮(ちん)ブロック」という鉄筋コンクリートブロックが構造として使われているそうです。礼拝堂内部の見学では、正面の木製装飾がつくられた年代について、和田さんから質問がありました。それを受けて大澤牧師が改めて資料を調べた結果、後年に設置されたことが新たにわかったそうです。

「弓町本郷教会」の礼拝堂内部

ブドウを描いたステンドグラスは1936年に設置された
上:「弓町本郷教会」の礼拝堂内部
下:ブドウを描いたステンドグラスは1936年に設置された

受け継がれる本郷の歴史と建築

教会を後にしたツアーは、最終目的地の「エチソウビル」に到着。ここでは、同ビルに10年ほど入居している建築家の野本陽さんに案内していただきました。

ツアーは本郷大横丁通り商店街を通って本郷通りの方へ

「エチソウビル」の外観。ビルの名前は創業者の越前屋惣兵衛から来ているそう

左:ツアーは本郷大横丁通り商店街を通って本郷通りの方へ
右:「エチソウビル」の外観。ビルの名前は創業者の越前屋惣兵衛から来ているそう

アール・デコ調に装飾された白い外観が印象的なこのビルは、1924年に糸屋の倉庫として建てられたと伝えられ、この日訪れた他の建物と同じく、関東大震災の復興建築として鉄筋コンクリートで造られています。現在は1階が飲食店、2階が野本さんの所属するファロ・デザインの設計事務所とカフェ、3階、4階にはデザイン事務所や歯科技工士の方などが入居しているそうです。

中央がファロ・デザインの野本さん。3階のS設計室にて
中央がファロ・デザインの野本さん。3階のS設計室にて

実は筆者は10年ほど本郷に住んでいるのですが、今回のツアーに参加して、いつも目にしていた建物の歴史を初めて学ぶことができました。関東大震災からの復興を目指した建築が多く残されていることを知り、建物単体だけでなく街全体も歴史のなかでかたちづくられていることを実感しました。今度はぜひ違う街についても学んでみたいと思います。

Text:澤口えりか
Photo:中川周

OPEN SITE 2019-2020 TOKAS教育普及プログラム
和田菜穂子(東京建築アクセスポイント)レクチャー&ツアー
「体験型の学び:建築を通して本郷の歴史を知る」
日程:2020年2月8日(土)13:00-16:30
参加費:無料
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペース
https://www.tokyoartsandspace.jp/archive/exhibition/2020/20200208-6969.html
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