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歌川国芳〈後編〉

アーティスト解体新書

No.045

『水滸伝』の武者絵で大ブレークした歌川国芳は、ほかにも戯画や風景画、美人画、役者絵、子供絵など、ありとあらゆるジャンルを精力的に手がけ、多くの弟子も育てて浮世絵界を牽引したことで知られています。後編では、そのパワフルな絵師人生を伝えるエピソードをご紹介。ピンチに屈しない国芳のタフな精神は、今を生きる私たちをも勇気づけます。


Illustration:豊島宙

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2021.09.01

歌川国芳(うたがわ・くによし、1797-1861)

日本橋本銀町で染物屋の息子として生まれる。10代前半で人気浮世絵師であった歌川豊国(うたがわ・とよくに)に入門。10代後半で浮世絵師としてデビューしたが、長らく不遇の時期を過ごす。しかし30代前半で手がけた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」シリーズで大ブレーク。生涯に渡って手がけた武者絵をはじめ、擬人化された可愛い動物たちで有名な戯画は以降の浮世絵師たちにも大きな影響を与えた。


「源頼光公舘土蜘作妖怪図」(部分)イメージ

大ピンチを笑いで乗り越える

武者絵と並ぶ国芳の真骨頂として知られるのが、ユーモアあふれる戯画。実は国芳が戯画を盛んに描くようになったのは、庶民文化にさまざまな統制が加えられた天保の改革の頃だった。浮世絵でも役者や遊女といった人気ジャンルを描くことが規制される大ピンチを逆手にとり、国芳はユーモアと皮肉にあふれた戯画に活路を見出して大人気となる。また国芳の戯画は幕府を暗に風刺しているとの噂を呼んで絶版になったり、奉行所の取り調べを受けることもあったが、国芳はまったくへこたれることなく作品を描き続けた。

ライバル・国貞と覇を競う

歌川国芳の好敵手といえる存在が、同じ歌川豊国の門下で、兄弟子にあたる歌川国貞(うたがわ・くにさだ)。国貞は国芳より12才年長で、国芳が浮世絵師として活動をはじめた頃には、すでに師の豊国と人気を競うほどの人気絵師だった。国貞が得意としていたのは、師の得意分野でもあった役者絵と美人画。浮世絵の二大人気ジャンルである。しかし国芳は武者絵で人気絵師の仲間入りをしたあと、戯画や風景画、美人画などさまざまなジャンルに進出し、多くの弟子も育て、幕末には国貞と拮抗する人気を誇ったのである。

「安政乙卯十一月廿三日両国橋渡初之図」(部分)イメージ

「江戸の今」を写す

浮世絵とはそもそも「浮世」、つまり世の中の流行を描くジャンルだが、国芳はとりわけ当時の最新の時事ネタを精力的に描いた絵師であった。題材となったのは、両国や浅草で行われた話題の見世物や、人気役者たちによる流行の歌舞伎の舞台、寺社での御開帳、江戸の町に起きた数々の珍事件などさまざま。国芳は安政の大地震(1855)のあとに中風(脳溢血)を患い、以前のように絵を描けなくなるが、その死の直前まで、ライフワークであった武者絵などとともに、「江戸の今」を取材した作品を手がけつづけた。

<完>

Text:渡邉晃(太田記念美術館上席学芸員)

没後160年記念 歌川国芳 展
2021年9月4日(土)~10月24日(日)
前期:9月4日(土)~9月26日(日)
後期:10月1日(金)~10月24日(日)

太田記念美術館
国内有数の浮世絵を専門とする美術館。葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳など人気絵師の代表作をはじめとするコレクションは約15,000点におよぶ。月ごとにユニークなテーマを設け、それに沿った浮世絵作品を展示し、いつ会場を訪れてもそのたびに浮世絵の魅力を堪能できる。

住所:東京都渋谷区神宮前1-10-10
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp

豊島宙(とよしま・そら)

イラストレーター。1980年茨城県生まれ。パレットクラブスクール卒業。
国内外問わず、雑誌、広告、WEB、アパレルを中心に活動中。サッカー関連のイラストレーション、メンズファッションイラストレーション、似顔絵を得意とする。
http://soratoyoshima.net

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