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ル・コルビュジエ〈後編〉

アーティスト解体新書

No.026

近代建築の巨匠ル・コルビュジエは、近代の生活様式に合わせた建築を提案しました。彼はその思想を、故郷スイスや移住先のフランスといったヨーロッパのみならず、インドやアメリカ、アルゼンチンなど、世界各地へ伝播させてゆきます。そして、遠い日本の地でも日本人の弟子たちの活躍により、世界に誇れる名建築が生み出されました。


Illustration:豊島宙
Text:浅野靖菜

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2019.05.29

ル・コルビュジエ(1887-1965)

本名 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ。1887年、高級時計の生産地として知られるスイスのラ・ショー=ド=フォンで、時計盤のエナメル職人の家に生まれる。近代建築の三大巨匠のひとりに数えられ、近代の生活に即した住宅や公共建築、都市計画を提唱した。また建築だけでなく、絵画や家具のデザインも手がけ、芸術批評や執筆でもその才能を発揮した。


革新的な建築構造

スイスで建築設計を行っていた1914年、ル・コルビュジエはその後の建築作品の原型となる「メゾン・ドミノ」を考案する。この工法は、床面とその内部に設置した柱で建物を支える仕組みだ。これにより、過重を支える構造壁にとらわれない、自由な壁面と間取りを実現させた。1926年以降、ル・コルビュジエはこの工法をさらに発展させた「近代建築の5原則」を提唱する。その5つとは、柱で建物を持ち上げた「ピロティ」、「屋上庭園」、「自由な間取り(平面)」、「横長の窓(水平に連続する窓)」、「自由な立面(ファサード)」である。加えて、人間の身体スケールを基準として建築や家具を設計する「モデュロール」という方法も考案し、これらの手法は人々の生活に即した新しい建築の在りようをもたらした。

国立西洋美術館を実現させた日本人弟子

ル・コルビュジエが日本に残した唯一の建築作品が、東京・上野にある国立西洋美術館本館である。その実現には、3人の日本人弟子の存在があった。ル・コルビュジエは1955年に一度来日したのみで、1年4カ月後に寸法の書かれていない図面をフランスから送っている。その図面を前川國男(まえかわ・くにお)、坂倉準三(さかくら・じゅんぞう)、吉阪隆正(よしざか・たかまさ)が解読し、施工した。「無限成長美術館」というコンセプトで設計され、来館者は1階のピロティから中央のホールに入り、螺旋状に拡がる展示室を巡っていく。ル・コルビュジエにおける近代建築のエッセンスが詰まったこの美術館は、2007年に国の重要文化財(建造物)に指定、2016年には世界文化遺産に登録された。

3人の弟子の中でも前川は、国立西洋美術館設立20周年となる1979年に竣工した国立西洋美術館 新館や、同じ上野公園内の東京文化会館や東京都美術館の設計も担当している。今日も近代を代表する師弟の名建築が、ル・コルビュジエの思想を体現してくれている。

<完>

主要参考文献
アンドレ ヴォジャンスキー著、白井秀和訳『ル・コルビュジエの手』、中央公論美術出版、2006年
松隈洋『ル・コルビュジエから遠く離れて:日本の20世紀建築遺産』、みすず書房、2016年
『ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代』、国立西洋美術館、2019年
米田尚輝「網膜上の記譜法──ル・コルビュジエの写真とデッサンについて」10+1 website
http://10plus1.jp/monthly/2010/07/issue2.php

国立西洋美術館

所在地:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9時30分~17時30分(金・土曜日は20時まで、入館は閉館の30分前まで)
※その他、時間延長期間があります。詳細はウェブサイトへ
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、年末年始

http://www.nmwa.go.jp/

豊島宙(とよしま・そら)

イラストレーター。1980年茨城県生まれ。パレットクラブスクール卒業。

国内外問わず、雑誌、広告、WEB、アパレルを中心に活動中。サッカー関連のイラストレーション、メンズファッションイラストレーション、似顔絵を得意とする。

http://soratoyoshima.net

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