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歌川国芳〈前編〉

アーティスト解体新書

No.044

江戸時代後期に活躍した浮世絵師・歌川国芳は、2021年に没後160年を迎えます。当時は勇壮な豪傑を描いた「武者絵」の第一人者として大人気の絵師でした。前編では、なかなか世に認められなかった不遇の時代から、一躍、江戸の人々を驚かせる絵師となるまでの、その道のりを辿ります。


Illustration:豊島宙

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2021.09.01

歌川国芳(うたがわ・くによし、1797-1861)

日本橋本銀町で染物屋の息子として生まれる。10代前半で人気浮世絵師であった歌川豊国(うたがわ・とよくに)に入門。10代後半で浮世絵師としてデビューしたが、長らく不遇の時期を過ごす。しかし30代前半で手がけた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」シリーズで大ブレーク。生涯に渡って手がけた武者絵をはじめ、擬人化された可愛い動物たちで有名な戯画は以降の浮世絵師たちにも大きな影響を与えた。


長かった不遇の時代

国芳は染物屋の息子として生まれ、幼名を芳三郎といった。幼い頃から絵を描くことが好きで、文化5年(1808)、12歳の時に描いた鍾馗図が人気絵師・歌川豊国の目にとまる。豊国は役者絵や美人画を手がけ、歌川派を率いて多くの弟子を抱えていた。豊国に認められた国芳は、その後歌川派へ入門。数年で国芳の名をもらうものの、それから長い間売れなかった。不遇の時代には、兄弟子の国直を慕ってその食客となっている。しかし時折描いた武者絵が好評を博すなど、のちの飛躍に向けて力を蓄えていく。

『水滸伝』の武者絵で大ブレーク

なかなか世に認められなかった国芳であるが、文政10年(1827)頃から出版された「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」シリーズがついに大ヒット。中国の伝記小説であった『水滸伝』は江戸でも翻訳され、当時、翻案物も出されるほどの人気となっていた。そうしたなか出されたこの作品は、画面をはみださんばかりに描かれた大迫力の豪傑たちの姿が好評となる。豪傑たちが美しい彫物を体に施しているのも特徴で、江戸っ子たちの間で実際に彫物が流行したほどだった。同シリーズは現存で70図以上が確認されている。

巨大モチーフで江戸っ子の度肝を抜かす

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」シリーズの大ヒットで一躍武者絵の第一人者となった国芳だったが、それに満足することなく、常に新しい構図やテーマに挑むことを怠らなかった。なかでも国芳の武者絵を語る上で欠かせないのは、大判3枚続きの大画面いっぱいに、骸骨や鰐鮫、鯨、酒呑童子などの巨大なモチーフを描いた大迫力の作品群。現代の私たちをも驚かせる大胆な構図は、国芳が50代にさしかかる頃から盛んに取り組んだ新境地だった。当時、江戸の人々が度肝を抜かれたのは言うまでもないことだろう。

Text:渡邉晃(太田記念美術館上席学芸員)

没後160年記念 歌川国芳 展
2021年9月4日(土)~10月24日(日)
前期:9月4日(土)~9月26日(日)
後期:10月1日(金)~10月24日(日)

太田記念美術館
国内有数の浮世絵を専門とする美術館。葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳など人気絵師の代表作をはじめとするコレクションは約15,000点におよぶ。月ごとにユニークなテーマを設け、それに沿った浮世絵作品を展示し、いつ会場を訪れてもそのたびに浮世絵の魅力を堪能できる。

住所:東京都渋谷区神宮前1-10-10
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp

豊島宙(とよしま・そら)

イラストレーター。1980年茨城県生まれ。パレットクラブスクール卒業。
国内外問わず、雑誌、広告、WEB、アパレルを中心に活動中。サッカー関連のイラストレーション、メンズファッションイラストレーション、似顔絵を得意とする。
http://soratoyoshima.net

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