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トーキョー・アートエッセンス
No.015 能登の情景がアートになった「ピアノ炎上2008」 山下洋輔氏 写真
語り手:ジャズピアニスト 山下洋輔氏
世界的なジャズピアニストとして、多くのファンを魅了してやまない山下洋輔氏。今年3月には、金沢21世紀美術館の主催により「ピアノ炎上2008」と題して、燃えるピアノを演奏するという挑戦を果たしました。35年ぶりに新たに手がけた演奏を振り返って、率直な思いを語っていただきました。

山下洋輔「ピアノ炎上2008」より
「荒野のグラフィズム:粟津潔展」関連企画
2008年3月8日 石川県志賀町(能登リゾートエリア増穂浦)
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
提供:金沢21世紀美術館
山下洋輔「ピアノ炎上2008」より
「荒野のグラフィズム:粟津潔展」関連企画
2008年3月8日 石川県志賀町(能登リゾートエリア増穂浦)
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
提供:金沢21世紀美術館
夕暮れの情景と観客がおさまってひとつの絵画になる

 35年前に燃えるピアノを演奏したのは、グラフィック・デザイナーの粟津潔さんの自宅近くの空き地でした。それは当時、作曲家の林光さんが中心になって取り組んだ企画で、ピアノがどんな音を出すかということを収録した教材を作るのに、水に沈めたり、燃やしたりして弾くという極限の状態の音を伝えたい。そこで、誰か演奏者はいないかということで、ぼくのところに話が来たんです。粟津さんがそのときの様子を16ミリのフィルム(※)に収めました。今回、金沢21世紀美術館で開催された「荒野のグラフィズム:粟津潔展」で、まずそのフィルムの上映と同時にピアノを弾くというイベントをやったわけです。その時に、折角なのでそれとは別に「実演」も出来ないかと考えたのが発端です。美術館の人たちや、企画にたずさわっていた粟津さんのご子息のケンさんの奔走で、能登の海岸沿いの志賀町に話をして実現しました。

当日は、500人近くの観客と大勢の取材陣が来ました。後日にはロイター通信まで取材に来て、世界中に発信するという大事になってしまいました。演奏した時間は約5〜6分ですね。火に熱せられて、低音のほうから音が消えていくのは以前演奏したときと同じでした。高音の弦も音が出なくなったので、ピアノから離れて観客と一緒に30分以上燃えるところを見ていました。海岸がしだいに暮れていき、波の音が聞こえ、岬の向こうに夕日が沈んでいく。ピアノは燃え続けている。すると、一瞬その光景が固定されて、額縁の中に収まったひとつの絵画になったような気がしました。自分もその作品の中の登場人物に過ぎないといった感覚で、これはまさにアートだと思える瞬間でした。つまり、自分のやったことは音楽ではなく、アート作品だという確認でしょうか。音楽行為は5分で終わってしまったわけですから。

 ピアノを燃やすというと悲しく思われますが、実際には廃棄されるのを待つだけという古いピアノを調律師さんと一緒に探しました。伝説のロック・ギタリスト、ジミー・ヘンドリックスがギターを燃やしたのも、あれは燃やすために用意されたギターらしいですね。今回の企画では、スタッフの人たちは特に大変だったと思います。今どきのご時世ですから、いろいろな注意を払いました。消防は勿論、エコ理論やピアノ虐待と思われることヘの配慮などですね。「ピアノ供養」という調律師さんの意見が取り入れられて、イベント前後にお坊さんが来てお経を上げてくれました。振り返ってみると、35年前に人に頼まれてやった表現がフィルムで残っていたわけですが、それを見て、やはりおもしろい表現のなかに自分はいたのだと思いましたね。世界中で、ただ自分一人しか得られなかった表現を経験できたと思っています。
※ 実験映像作品《ピアノ炎上》(1974年/金沢21世紀美術館蔵)


「トリプル・キャッツ」山下洋輔ニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバム
演奏:山下洋輔ニューヨーク・トリオ[山下洋輔(p)、セシル・マクビー(b)、フェローン・アクラフ(ds)]、ゲスト:川嶋哲郎(ts, fl)
(c)Akihiko Sonoda
「トリプル・キャッツ」山下洋輔ニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバム
演奏:山下洋輔ニューヨーク・トリオ[山下洋輔(p)、セシル・マクビー(b)、フェローン・アクラフ(ds)]、ゲスト:川嶋哲郎(ts, fl)
「トリプル・キャッツ」山下洋輔ニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバム
演奏:山下洋輔ニューヨーク・トリオ[山下洋輔(p)、セシル・マクビー(b)、フェローン・アクラフ(ds)]、ゲスト:川嶋哲郎(ts, fl)
過激で自由な美術の人たちには勇気づけられる思い

 新宿でジャズをはじめた頃、新宿椿画廊に偶然飛び込んで出会った絵があります。衝撃を受けて作者に会いに行きました。そんなことをしたのは一生に一度だけです。それが松井守男という画家との出会いでした。彼はその後、フランスに渡り、活躍し続けてとうとうレジオン・ドヌール勲章を受けました。今はコルシカに住んでいます。彼にはさまざまなインスピレーションを、今でももらい続けています。彼が参加したアビニヨンの芸術週間に一緒に行って、道端でアップライトのピアノを弾いたなんてこともありましたね。そういえば、もともとぼくは変なところで演奏する機会が多いですね。その時々のシチュエーションやライブ感を楽しむタイプなので、それが決して嫌いではないんですね。旧鹿児島刑務所の門前にピアノを持ち出して弾いたり、早稲田大学の学生運動の最中にバリケードの中で演奏したこともありました。黒田征太郎さんとライブをやったこともありますよ。黒田さんが絵を描いている間、ずっとピアノを弾いているという即興コラボレーションでした。

 音楽では50年代にジョン・ケージという作曲家が現れて、ピアノの前に座って弾かないという作品を発表したりなどおもしろいことをしていますが、美術系の人達も凄いですよね。作品だといって裸になって道端で寝るとか、アクションペインティングの人たちかな、花園神社から椿画廊まで戦闘服を着て走ってきてそれが作品だといったりしてた。これはおもしろいと思いましたね。「ゼロ次元」なんていう集団もありましたよね。自分の表現として何をやってもいいんだという美術の人たちからの発信を、60年代に確かに受け取っていました。美術イコール過激という印象です。勇気づけられますよね。そういう美術界のバックグラウンドの中で、今度の「ピアノ炎上」も実現したと思っています。あのイベントを、粟津潔さんをはじめ60年代に活躍したすべての前衛芸術家に捧げると趣意書に書いたのもそういう背景があってのことです。


次回は…
引き続きジャズピアニストの山下洋輔氏に、新宿のピットイン時代を語っていただきます。[7月10日(木)アップ予定]

山下洋輔(やましたようすけ) 山下洋輔 写真
東京生まれ。1969年、山下洋輔トリオを結成。自由かつエネルギッシュな演奏で、ジャズ界に衝撃を与える。88年、山下洋輔ニューヨーク・トリオを結成。国内のみならず世界各国で演奏活動を展開し、世界中で圧倒的な支持を受ける。99年、芸術選奨文部大臣賞(大衆芸能部門)、03年には紫綬褒章受章。2000年に発表したピアノ協奏曲「即興演奏家の為のエンカウンター」を、佐渡裕の指揮により04年にイタリア・トリノで、05年にはNHK交響楽団と再演する。06年3月オーネット・コールマンと共演。11月、特別編成のビッグバンドによるDVD『ラプソディ・イン・ブルー』をリリース。07年2月、セシル・テイラーとデュオ・コンサート開催。08年1月、佐渡裕指揮の東京フィルハーモニー交響楽団と「ピアノ協奏曲第3番<エクスプローラー>」発表。3月ニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバム『トリプル・キャッツ』リリース。母校国立音楽大学の招聘教授、名古屋芸術大学の客員教授を務める。多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。
URL. http://www.jamrice.co.jp/
 
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