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インタビュー
No.004
リスクを背負って、自分に来たものは全部やる
語り手:アーティスト 川俣正さん
さまざまな人々とかかわり、「場」に合わせたサイトスペシフィックなプロジェクトを多数展開してきたアーティストの川俣正さん。建築や都市計画、歴史学、社会学、日常のコミュニケーション、あるいは医療にまで及ぶ広い領域に関わった作品制作を行い、近年ではインターナショナルな活動がローカルな地域でどのように活かされるのかを試す「インターローカリゼーション」を提唱しています。今回のインタビューでは、4畳半のアパートでの展覧会から国際展まで、どのように道を切り開いていったのかをおうかがいしました。
トロントプロジェクト 1989年 トロント

短期決戦で連続個展、ヴェニス(ヴェネツィア)・ビエンナーレのチャンスと挫折

 美術学校を選んだのは、積極的にではなくて、それしか選択肢がなかったからなんです。一般大学に入る勉強もしていなかったので、受験のために高校で美術部に入部。何年か浪人して藝大の絵画科に入ったのですが、絵を描くのが嫌いではないけど好きでもなかったから、1年のとき課題で油絵を何回か描いたくらいで、それ以降は何も描かなかった。いわゆる五月病というか、その頃はよく上野公園でブラブラしたりしていましたね。

 美術のことを考えるようになったのは藝大3年のとき。榎倉康二さんが授業で現代美術の作品をいろいろ紹介してくれて、必ずしも絵を描かなくてもいいんだと思い始めてから、現代美術を見に町の画廊に足を運ぶようになりました。それまでは美術雑誌を読んだこともなかったですね。

 卒業制作を僕は町の画廊を借りて個展にしたんです。個展だと逃げられないし、作品についていろいろ真剣に考えるようになったのはそれからです。結局4年間では飽き足りず、大学院に進みました。まだ作家になろうという気はなく、せっかくやるんだから自分のオリジナルのスタイルをつくりたいという気持ちが一番にありましたね。それで食えるなんて思ってなかった。ただ、批評家の中原祐介さんが授業で来たときに作品を見てもらうなど、いろいろな人に巡り合いながら徐々に作家意識が芽生えてきて、大学院の頃には、木材で構築物をつくるといった自分の方向性が見えていました。当時の美術界は、もの派が終わって、ミニマルでもコンセプチュアルでもなくだらだらとした感じだったから、誰もやったことがない面白いことをしたいと。作品は今すぐ売れちゃまずいとも思っていました。お金にするのは難しい、でもこういう仕事もあっていいんじゃないかと思わせる作品をつくりたいと思ったんです。

 そのためにはまず自己投資。予備校でバイトしながら、給料を前借りしたり借金もずいぶんしたりして制作につぎ込んで、短期決戦でやろうと。当時の同世代の作家は、バイトしてお金を貯めて画廊を借りて半年に1回個展を開いてもあまり人が来なかったり、アトリエを借りるために働いているうちに制作ができなくなったりしていたから。そうではない方法論を築き上げながら、月に1回、年間12回の個展、グループ展も入れれば20回くらい発表していったんです。「早い、安い、うまい」で行こうと(笑)。

 そうしたら批評家の東野芳明さんから「若い作家で、作品の質はともあれ、今年一番発表回数をこなした奴だ」と言われて。それはひとつの目標だったし、そう言われたのはうれしくて、そこで初めてそういう作家だという意識が生まれた。それでどんどんやっていたら、いきなりヴェニス・ビエンナーレの話がきたんです。

 それがヨーロッパで初めての発表で、勇んで行ったんだけど、全然評価が得られなかったんですね。シュナーベルとかクレメンテとかニューペインティング全盛のなか、僕だけがインスタレーションで。それからドイツ、ケルンの友達の家を借りて半年ほど悶々としていたんだけど、もう美術館とか画廊とか美術のフィールドではやめようと。生活する場所で制作し、それを見せるというアイデアが最後に出てきました。

アパートメント・プロジェクト「宝ハウス205号室」1982年 東京
アパートメント・プロジェクト「宝ハウス205号室」1982年 東京

アパートメント・プロジェクト「テトラハウス N-3 W-26」1983年 札幌
アパートメント・プロジェクト「テトラハウス N-3 W-26」1983年 札幌


サーカスの興業のように、世界各国で発表を展開

Destroyed Church 「ドクメンタ8」1987年 カッセル
Destroyed Church 「ドクメンタ8」1987年 カッセル

 12月に東京に帰ってきてすぐアパートを借りて「宝ハウス205号室」という個展を行いました。自分の家ではなく、「レンタルスペース」ということに興味があったから、一時的に場所を借りて一時的に制作して発表するには賃貸アパートがいいんじゃないかと。自分で場所を見つけて、制作して、貼り紙して、広報もしてと、全部自分でやる。個展情報が載った『ぴあ』を持った人がその4畳半の部屋に恐る恐る来てくれたりしてね。こんな奴がいると言われるだけでいいと思って、その後も札幌とか福岡とかいくつかの場所で「アパートメント・プロジェクト」を続けるうちに、公園とか都市の隙間とか場所も広がっていきました。

 ヴェニスで唯一よかったのは、ニューヨークのPS1のキュレーター、アラナ・ハイスが声をかけてくれたこと。「PS1に訪ねてきなさい」という言葉を信じてチケットを取って、ニューヨークまで行ったんですね。アラナは留守で他のキュレーターと20分くらいのミーティングをして、その後プロジェクトができることになった。でもお金は自分で調達しないといけなくて、文化庁の助成には落ちましたが、ACC(アジアン・カルチュラル・カウンシル)の助成でレジデンスに行けることになりました。代官山のヒルサイドテラスで「工事中」というプロジェクトを行っていた1984年の暮れですね。

 その後、86年にオランダ、ハーグでのプロジェクトを見たディレクターが「ドクメンタ8」に誘ってくれて、「ドクメンタ8」からトロントやベルギーでのプロジェクトへとつながっていく。誰かが見て口伝えで次の仕事が来る、サーカスの興業みたいな気分でいました。カッセルでは全部お金使っちゃって帰りの飛行機チケットが買えなくなったりして。ヴェニス出展の時は、ファーストクラスの飛行機のチケットが支給されたので、エコノミークラスに下げて世界を回るなんてことも当時はできたから、海外の友達の家を渡り歩きながら、外国語やお金の工面なんかも覚えました。

PS1 プロジェクト 1985年 ニューヨーク
PS1 プロジェクト 1985年 ニューヨーク


リスクを恐れず、自分の方法論を確立して活動を続ける

 若いうちはリスクを背負って、自分に来たものは全部やる。どうしてもしたいんだけど伝手もない、というリアルな自分を見せてしまって、お金がなければ借りてでも40歳くらいまでは自分に投資していいと思います。少しお金が入ってくるようになったら次の仕事に投資する。仕事で生活ができるようになったら、最後はやりたい仕事だけやるというふうに段階があると思います。最初からお金にすることを考えないほうがいい。

 人とのかかわりで仕事は変わってくるから、あまり自分でキャパを決めずに、いろいろなジャンル・職種の人たちとやれたほうがいいと思いますね。僕の方法が一般化する必要はなくて、他の人がやっていない方法論を確立することが大事。

 今は夢や野心など全くないです。プロジェクトごとにその場に行って、転がってきたから。希望を持っちゃうと欲が出て、そこにたどり着けないとジレンマが起こる。それで自分で自分を小さくしてしまうということがあるからね。「アートレス」の次は「ホープレス」かな(笑)。むやみに頑張れというのは罪悪になりかねない。でも「頑張らない」のは怠けることとは違いますよ。転がっていくときに自分のスタンスを見せていく、というのは大事かもしれないですね。


(c)Tadashi Kawamata
インタビュー・文/白坂ゆり

川俣正(かわまたただし)

川俣正(かわまたただし)

1953年北海道生まれ。1984年東京藝術大学博士課程満期退学。1977年より発表活動を開始。1982年、28歳の若さで「第40回ヴェネツィア・ビエンナーレ」の参加アーティストに選出。1982〜83年「アパートメント・プロジェクト」など国内外で多数のプロジェクトや展覧会を行い、欧米を中心に高い評価を得るようになる。1987年「ドクメンタ8」、「第19回サンパウロ国際ビエンナーレ」などに出品。2005年、「第2回横浜トリエンナーレ アートサーカス(日常からの跳躍)」の総合ディレクターを務める。1994年4月〜2005年3月、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授を経て、現在はパリ国立高等芸術学院教授。2010年〜「東京インプログレス」、2011年「ショーモン・シュル・ロワールにおけるプロジェクト」(フランス)ほか、現在もさまざまなプロジェクトを実施。
http://www.tk-onthetable.com/

 
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