2014年UP
35歳以下のアーティストのための公募展
その日、小山登美夫学長はトーキョーワンダーサイト渋谷を訪れた。アートユニット「目」のメンバーである荒神明香さんと南川憲二さんに、今年で12年目となる「ワンダーシード2014」を案内するためだ。
 渋谷の街の中にあるトーキョーワンダーサイト渋谷。入口にはカフェが併設
小山 「ワンダーシード」は若手アーティストが対象の公募展で、ぼくは1回目の時から審査員を務めています。応募には年齢制限があって、35歳以下に限られている。お2人は、いくつだっけ?
荒神 30です。
南川 34なので、ぎりぎりですね。
小山 今回は450点くらい応募があって、入選したのは108点。応募者の名前を伏せて投票する仕組みで、審査はまさにガチ。
荒神 小山さんは審査する時、どういうところを見るんですか?
小山 技術的にちゃんとしているか、まずはそこを見ます。何か新しいものを持った人がいたらいいなと思って見るけど、なかなかいないんだよね。この「ワンダーシード」は10号(長辺が53センチ)以下という小さいサイズが対象。その理由は2つあって、ひとつは、小さな絵を描くのは難しいから。もうひとつは、この公募展は絵を販売するという特徴があって、小さい絵なら気軽に買ってもらえるだろうと期待しているわけです。
南川 いま、絵画って売れているんですか?
小山 日本はともかく、世界的にはマーケットが広がっていて、クリスティーズをはじめオークション会社の売上げがすごい勢いで伸びている。なぜかというと、買う人が増えてきたから。最近はロシアや中東がとくに活発だね。
 展示作品には売約済みのものを除いて価格がついている
3人は、会場のSPACE AからDまでを巡り、作品を見て回った。それぞれ、いちばん気に入った作品を選ぶことになった。

3人が選んだ作品は……
小山 ぼくは、荒川龍太郎さんの《男だけが死んでいく》がいいな。まず、タイトルがいいよね。それにみっちり描き込んでいて。描き込みもペイズリーや螺旋とか模様が豊富だし。
南川 小山さんが選んだ、というフィルターで見ると、見え方が変わってきました。
荒川龍太郎《男だけが死んでいく》2012
小山 じゃあ、南川さんはどれ?
南川 浜中マキさんの《水辺》かな。初めに見た時は船が認識できなかったけど、ずっと見ているうちに見えてきた。自分は絵を描かないので、絵を見た時に、なぜ絵じゃいけないのかを考えてしまう。この作品は、絵でなければできないことをやっている。
荒神 色がきれいで、外国の人が描いたみたい。
浜中マキ《水辺》2013
小山 荒神さんは?
荒神 迷いましたが、千原真実さんの《どこ行くの?》。この絵の意図を聞いてみたい。自転車を裸でこいでいたりとか、すごい気になる。
南川 うん、本人に会いたくなるなあ。強い意図があるのか、まったくないのか、どっちかだろうね。
荒神 何も考えてない人からコンセプトを聞き出すのって、おもしろいよね。「何、それ?」みたいな話が聞けて。
千原真実《どこ行くの?》2012

デビューのころ
このように「ワンダーシード2014」を見終わり、デビューしたころの話題となった。
小山 2人ともデビューが早かったし、恵まれていたよね。荒神さん、デビューはいくつの時だっけ?
荒神 学部の頃ですね。
小山 まだ学部生だったんだ、「アート アワード トーキョー 2007」でグランプリを取ったのは! 東京都現代美術館のチーフキュレーターで、国内外で展覧会を企画している長谷川祐子さんの目にとまってサンパウロ近代美術館で展示したりしたよね。
荒神 ええ、おかげさまで。
南川 ぼくは卒業制作展で声がかかって、次のプロジェクトでまた声がかかって、といった感じで続いていって。
小山 「ワンダーシード」に出してる人の中には、荒神さんより年上の出品者も多いけど、若い人が今後、アーティストとしてやっていくために、何かアドバイスある?
荒神 こういうものが見たい、こういうことが表現したいという欲求を持ち続けることですね。そういう欲求がないのに、活動を続けていても何も始まらないと思います。
小山 その欲求が実現した時、他人に見てもらいたいものなの?
荒神 見てもらいたい! 小学5年生の頃、校舎の5階からトイレットペーパーを放り投げたら、めちゃくちゃきれいな軌跡を空中に描いて飛んでいった。で、友だちにも見てもらったら、「わぁー!」って喜んでくれて。友だちが喜ぶ顔を見るのが大好きでした。
南川 それ、投げてみたい!
小山 うんうん、自分でも見たいし、他人にも見てもらいたいわけね。表現がコミュニケーションとして成り立っているね。

その後も3人の会話は多方向に展開した。この続きは、次号に!
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