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アートのスペシャリスト
No.002
アートとの出会いを演出し、ものの見方をガラッと変える
東京都現代美術館・教育普及担当 郷泰典さん
「なんでも作品にしてしまう、美術ってとてもおもしろい」。今まであまりアートに触れる機会のなかった子供たちから、そんな感想が多数寄せられる作品鑑賞プログラムが、東京都現代美術館で開催されています。企画しているのは、同館の教育普及係。「現代美術との出会いを演出することで、子供たちのアート体験を豊かなものにする」、それが主な仕事です。今回は、教育普及を担当する学芸員、郷泰典さんにこの仕事を始めた経緯と、どのようなプログラムを実践されているのか、お話をお聞きしました。
団体鑑賞に訪れた小学生と郷泰典さん

フリーのワークショップ・プランナーから鑑賞教育のプロへ

――郷さんが現在のお仕事に就くまでの経緯をお教えください。

画廊や出版社に勤めていた頃から、アートの魅力を広く伝えたくて講演会の企画などを行っていたのですが、アートの魅力を伝えるためには、一方的に演者の話を聞かせるだけではいけないと感じており、どうすればいいかを模索していました。そんな時に参加したある美術館でのワークショップが、クイズ形式で作品を鑑賞したり、美術館内を探検するなど、主催者と参加者との間にコミュニケーションがあって楽しかったんです。それで美術館運営に携わるボランティアを始め、2年間かけてワークショップの手法を体得。フリーのプランナーとして、美術館や学校、商店街、病院などと提携してワークショップを開催する仕事を立ち上げました。美術館では展覧会を利用したプログラム、商店街や学校、病院では「日常空間にも発見がある」というアプローチでプログラムを考えていたんです。

その後、金沢21世紀美術館での「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」にプログラム指導者としてかかわり、2007年からは東京都現代美術館事業推進課の教育普及担当として働いています。日本の美術館では、展覧会を企画した学芸員が教育普及事業を行うことも多いのですが、東京都現代美術館では、開館時から教育普及を担当する部署があります。


鑑賞者とアートとの距離を近づける、教育普及の仕事

――教育普及とはどのようなお仕事なのですか?

高校生ボランティア
高校生ボランティア

都民に開かれた施設としての美術館と地域や学校との結びつきを深めるため、また、収蔵作品の中心である現代美術に広く親しんでいただくための「しくみ」を考えることが主な仕事です。例えば、学校団体向けの鑑賞教室「ミュージアム・スクール」、親子で参加する「ギャラリークルーズ」、美術館のバックヤード探検など、美術館に足を運ぶきっかけとなるプログラムを複数企画し、実施することで、鑑賞者の裾野を広げる努力をしています。

学校教員を対象とした「先生のための特別研修会」もあります。中学・高校生の職場体験、高校生ボランティアなどの受け入れは、美術館の裏側(内部)を体験することでさらに興味を持ってもらうのが趣旨です。大学の博物館実習生も受け入れています。

――子供対象の鑑賞教育にはどのようなものがありますか?

近年、小学校の学習指導要領が変わり、創作だけでなく、美術作品を味わう鑑賞教育にも力を入れるようになってきました。そこで、本物の作品に触れることができる美術館訪問を授業に取り入れる学校も増加。東京都現代美術館を利用される学校も増えています。当館では、学芸員が鑑賞者に問いかける対話型の鑑賞だけでなく、作品から受けるイメージを身体(からだ)で表現するワークショップなども実施しています。

俳優で演出家の近藤春菜さんを指導者にお招きしたワークショップ「ボディー・アクション! からだでお話ししてみよう」では、作品の形を身体で再現してみたり、作品に出てくる人物のことを想像して即興芝居をしてみたり、展示室に寝転んで視点を変えて見たり。子供たちは、言葉以外にもさまざまな表現方法があることを実感していました。

「ボディー・アクション! からだでお話ししてみよう」より。身体を使ったコミュニケーションに親しんだ後、彫刻作品の形を再現してみる。

「ボディー・アクション! からだでお話ししてみよう」より。身体を使ったコミュニケーションに親しんだ後、彫刻作品の形を再現してみる。
「ボディー・アクション! からだでお話ししてみよう」より。身体を使ったコミュニケーションに親しんだ後、彫刻作品の形を再現してみる。

館外でのプログラムもあります。例えば、アーティストの岩井成昭さんと考えたのは「旅」をテーマにしたプログラムです。子供たちを4つのチームに分け、それぞれ「行きたい場所」を考えます。別のチームの「行きたい場所」を想像して、実際にその場所を創作するんです。ちょっとした森を「謎の生命体がいる場所」に設定して探検したり、高架トンネルを「お化けのミュージック・ショーがある場所」に設定して、仮装してみたり。すると、街なかの何の変哲もない場所が、子供たちの想像で様変わりする。そんな創作と鑑賞の双方を体験してもらうプログラムも行いました。

――アーティストと接するプログラムもあるんですね。

「アーティストの1日学校訪問」というプログラムがあります。ホーメイ歌手でアーティストの山川冬樹さんは、電子聴診器を用いて心臓の鼓動を音と光に変換するパフォーマンスを行い、実際に子供たちが自分たちの鼓動を聞くなど、図工でも音楽でもない授業を行いました。教科にとらわれず、子供たちの視野や世界を広げる手助けをしたいのです。さらに、子供のダイレクトな反応がアーティストにとっても刺激になります。

――都内であっても、美術館から遠い地域の学校のために用意しているものはありますか?

はい。美術館で働く人々の紹介やコレクションの解説、アーティストのインタビューを収録したDVDやスライドの授業用教材を貸し出しています。


鑑賞教育とは、ものの見方を変えるための練習

――ワークショップというと工作のようなものづくりを思い浮かべますが、お話をうかがっていると、それだけではないのですね。

「ミュージアムスクール」より。モナ・ハトゥーム《ウェブ》を寝転んで鑑賞する子供たち。
「ミュージアムスクール」より。モナ・ハトゥーム《ウェブ》を寝転んで鑑賞する子供たち。

そうですね。ワークショップとは本来、「工房」、「作業場」を意味しますが、何かを表現したり編み出したりするための「手法」のことも指すんですね。ですから、形になるものばかりではないんです。作品をとおして普段は出会えない出来事を体験していただき、「ああ、こんな見方があったのか」という「気づき」を持ち帰ってもらうことが大切だと思います。

作品には、こう見なければいけないという決まった答えがあるわけでなく、見た人の数だけ捉え方があります。多様な意見が引き出せるように、制作プロセスを撮影した記録写真を使ったり、制作で出た端材をもらって作品の素材に触れるようにしたり、どんなアプローチで作品に接してもらうか工夫を重ねています。子供のコメントから教えてもらうこともいっぱいありますし、そうした反応は学芸員にフィードバックされ、共有されています。

――この仕事をしたい人にアドバイスをお願いします。

現状では、教育普及分野に限った担当者を募集することがほとんどないので、まず学芸員資格をとって学芸員になることが必要ですね。展覧会を企画したり、コレクションを扱ったりするなかで、鑑賞教育をどのように行うかを考えている学芸員は多数いらっしゃいます。あるいは、フリーでワークショップや講座を行っているような団体もあります。美術の知識に留まらず、子供の小さな反応に気づくような気遣いも大切です。そうした眼を養うために、さまざまな分野で社会経験を積んでから始めてもいいとも思います。


インタビュー・文/白坂ゆり

郷泰典(ごう・やすのり)

画廊と出版社勤務を経て、1998年より、フリーのワークショップ・プランナーとして活動。作品と鑑賞者とをつなぎ、日常生活におけるアート体験へと導く、主に子供を対象としたワークショップ・プログラムを企画し、全国各地の美術館・学校・病院などで実施。2004年から金沢21世紀美術館にて「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」の立ち上げメンバーとして携わり、2007年より現職の東京都現代美術館 事業推進課教育普及係長。

http://www.mot-art-museum.jp/kyoiku/index.html

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